すな粉妄想日記

それから。

ユーゴの必死の説明で、
どうにかその場は収まった。

父は紛らわしい真似をするなと
言い残し、部屋を出て行った。

その足音が遠ざかると、

「…はぁ～…」

兄弟は揃って安堵の溜息をつく。

「…ごめん」

ユーゴが申し訳なさそうに
兄を見る。

「僕のせいで…兄さんが」

俯く弟に、トールは笑いながら答えた。

「お前のせいじゃない。気にするな」

そう。原因はユーゴではない。

自分の行動が唐突過ぎたからだ。

冷静になった今思い返すと、
羞恥心がひしひしと込み上げてくる。

どうも自分は弟への想いが
強すぎるようだ。

悲しませたくない一心で、
冷静な判断力を失ってしまった。

父はさぞかし驚いた事だろう。

怒り心頭の父が放った言葉が、
頭の中で響いていた。

『いつから貴様は、実の弟に手を出す鬼畜になったのだ』

事実無根とは言え、直接言葉にされると
かなり厳しいものがある。

「まさか、鬼畜呼ばわりされるとはな」

ばつの悪さをごまかす為、
トールはわざと軽い口調でおどけて見せた。

「父上にすまない事をした」

軽く肩を竦めて弟に同意を求める。

すると、おもむろにユーゴがぽつりと言った。

「僕は…」

小さな、か細い声で。

「鬼畜でも…構わないけど」

その言葉は兄の耳にしっかりと届いた。

「……あ」

口に出してしまってから、ユーゴは慌てて顔を背ける。

が、次の瞬間…

トールの鼓動が大きく跳ね上がった。

胸中は再び、弟への過剰な想いで一杯になる。

それは兄弟愛の域を
遥かに超えていて…

『実の弟に手を出す鬼畜』

父の言葉が一気に現実味を帯びる。

「ユーゴ…」

今すぐ弟を抱きしめたい気持ちを
抑え込むのが、先程の修羅場を上回る試練となった。