すな粉妄想日記

一口、紅茶を飲むと
ユーゴは思わず顔をしかめた。

（……苦い）

今淹れたのは、濃い目のストレートティー。

兄がいつも飲んでいるものだ。

ユーゴが好きなのはミルクティーなのだが…

たまには兄と同じにしてみようと
思ったのだった。

目線を上げて、こっそり
テーブルの向こうの兄を見る。

兄は、美味しそうに紅茶を口にしていた。

「………」

ユーゴには苦くてどうしようもないこの飲み物が、
トールには美味なものらしい。

何だか負けたような、悔しいような、
微妙な気分になった。

兄とは随分歳の差があるが、
それがとても歯痒く感じる時がある。

どんなに努力しようと、決して埋められないもの。

仕方のない事だと分かってはいる。

それでもユーゴは、兄と対等になりたかった。

無理ならせめて少しでも追いつきたい。

たかが紅茶の味くらいで
張り合う自分もどうかと思うが…

（……ん？）

その時、ユーゴは気づいた。

兄の前に置かれた小さなミルクポットに。

「兄さんが…ミルクティー？」

驚いて思わず声に出してしまった。

当然ながら相手はその言葉に反応する。

「おかしいか？」

顔を上げたトールは、気を悪くした様子もなく
そう尋ねてきた。

「い、いや…そうじゃないけど。でも」

弟の言わんとする事を察して、
兄が答える。

「今日は少し、疲れたからな。
そういう時にはこっちの方がいいんだ」

実は、結構飲んでいるんだぞと悪戯っぽく笑う。

それを見たユーゴは、安心感と同時に
肩の荷が下りたような気分になった。

自分もつられて顔をほころばせる。

すると、兄の口から意外な台詞が飛びだしてきた。

「なんだか、お前みたいなんだよな」

「え？」

意味が分からず目をしばたたかせる。

「甘くて、温かくて…ほっとさせられる」

「……！！」

思いもしなかった言葉に
ユーゴは戸惑う。

そんな風に言われると、
何だか気恥ずかしい。

しかし、正直嬉しくなった。

疲れた時のミルクティー。

悪くないかもしれないな…

（やっぱり僕はミルクティーでいいか）

苦い紅茶を飲みながら、
そんな風に考えたのだった。