すな粉妄想日記

全くもって呆れたものだ…

ダレスは目前で苦りきった表情をしている
相手を眺めながら、そう思った。

カップの中からふわりと香りが立ち上り、
鼻腔をくすぐる。

それを楽しみながらふっと息をつく。

あの少年が、兄の事をどれだけ好いているか。

この兄が、弟の事をどれだけ大切に想っているか。

周りから見れば一目瞭然なのに、
当の本人達はそれがわかっていないのだから
滑稽という他ない。

見事な茶番だ。

もっと、波風を立ててやろうか…

そんな考えが脳裏をよぎる。

（ひとつ試してみるとしよう）

カップを静かに置き、ちらりと視線を向ける。

「弟君は、」

子供に言い聞かせるような口調で
ゆっくりと呟く。

「…！」

弟、という言葉に相手が敏感に反応したのが判る。

「本当に君の事を愛しているのかな」

その言葉にトールは眉根を寄せた。

「…どういう意味だ」

「彼が、本当に想っているのは」

わざとそこで言葉を切ってカップに口をつけた。

視界の端で相手の様子を伺うと
案の定、焦れたようにこちらを睨みつけている。

中身を一口啜り、再び口を開く。

「君達の、父上なのではないかと思ってね」

「！？何…」

「弟君にとって君は…優しくしてくれる若い父上、
という事になるのだろう」

「何だと…」

我ながらなかなか説得力のある内容だと思う。

「君は結局、父上の代わりなのだよ」

「…まさか、」

その時、トールの言葉を遮るように
予鈴のチャイムが鳴った。

「そろそろ時間だな」

片手を挙げて制止の意を示しながら、
ダレスは出入口に視線を投げる。

「教師が遅れては、生徒に示しがつかないだろう」

「…、」

彼はまだ何か言いかけたが、
そのまま踵を返すと足早に保健室を出て行った。