すな粉妄想日記

「あら…トール」

仕事場へ行くと、同僚のカデナが声をかけてきた。

「ネクタイ、新調したの？」

「ん、ああ。鋭いな」

内心流石だと思いつつ、
トールは顔をほころばせる。

「あんたにしては、奮発したわね」

感心したようにカデナはそう言った。

「え…そうか？」

トールは視線を落とすと
改めて自分の首元を見つめた。

「あんた…知らないでそれつけてるの？」

同僚は呆れて目を丸くする。

「あ、ああ。これは弟からもらったんだが」

トールがやや戸惑いながら答えると、

「あら…そうなの？」

カデナは更に驚いた顔になった。

「随分と兄思いなのね」

うんうんと頷きながら、
ぽん、とトールの肩に手を置く。

「大事にしてやんなさいよ」

そのまま軽く手を振って、
カデナは歩き去って行った。

「……？」

残されたトールはひとり
首を傾げていた。

（そんなに高価なものだったのか…？）

まじまじとネクタイを眺め、
弟の顔を思い浮かべる。

『ほら…これ』

照れ臭いのを隠したいのか、
ことさら素っ気ない態度で渡されたもの。

綺麗に包装された箱に
入っていたのが、このネクタイだった。

トールは感激のあまり、
何度も弟を抱きしめて礼を言った。

『や、やめろよ…！！』

過剰な反応に、たちまち
逃げられてしまったが。

その時は、値段の事など
考えもしなかった。

ユーゴが自分のために選んでくれた…

純粋に、それが嬉しかったのだ。

しかし、カデナがああ言った位だから、
そうとう良い品なのだろう。

「……くっ」

目頭が熱くなるのを感じて、
思わず顔を覆った。

まさかここで号泣する訳にはいかない。

「よし…！！」

今日は仕事が片付き次第、
急いで帰ろう。

そんな決意を固め、トールは
意気揚々と歩き出すのだった。