すな粉妄想日記

「…何があった」

父の声に、思わず目を見開く。

話しかけてくる事など、めったにないのに。

昨晩、僕が自分から
求めたせいだろうか。

思い返すと、今更ながら
羞恥心で顔が火照った。

「たいした事は…、」

そう言いかけて口を噤む。

父の前で、兄の話は出さない方が良い。

それは判っていた。

だが…父に嘘はつけない。

返事をせずに済ます事は
できそうになかった。

僕は叱責を覚悟して、
正直に話した。

昨日、神殿で見た光景を。

騎士装束を纏った兄の姿を。

「ただ…、それだけです」

そう言葉を切って、
父の反応を待つ。

父は黙って目を伏せていた。

その表情からは、
どんな感情も読み取れない。

「……」

しばらくしてゆっくりと口を開く。

「あの男の事は、忘れろ」

呟くように、しかしはっきりと
父は言った。

「ファクト家の後継者は…お前だ」

「…！！」

一瞬、自分の耳を疑った。

初めて聞く、その言葉。

夢ではないだろうか？

いや…

これは、現実だ。

紛れもなく。

体の疼きが、それを
はっきりと証明してくれている。

「……っ」

嬉しかった。

どれほど待ち焦がれていたのか。

狂おしい程に。

父が、自分を認めてくれるのを。

胸の奥が熱くなる。

僕は父を見つめながら、静かに頷いた。

「はい、父上…」

父は目を細めると、
僕に覆い被さってきた。

そしてそのまま、
強引に中へ入ってくる。

「っ、ああ…！！」

激しい痛みが、体を貫く。

苦痛のあまり悲鳴を上げる。

けれども。

僕は今、幸せだった。

満たされている…

体も、心も。