すな粉妄想日記

と、サウルの視界に人影が映った。

黒を基調とした神官の装束を纏った
その人物は、まさに今噂をしていた張本人
カイン＝ファクトであった。

しかも、彼の腕の中には…

「…あ、」

ちんまりとした子供が
しっかりと抱えられている。

角度と距離の関係で表情までは分からないが、
まず間違いなくトールの弟であろう。

これはいかん、と思った瞬間、
トールの視線もその人影に注がれていた。

（……まずいな）

みるみるうちにトールの顔が青ざめ、
瞳には涙が溢れた。

身体がぐらりと傾く。

「トール！！」

とっさに腕を伸ばして抱きとめる。

「大丈夫か？」

一応尋ねてみたものの、
全然大丈夫そうではない。

腕の中で、部下はぼろぼろと
大粒の涙を零していた。

本来なら、いい歳をした男が…と
呆れるところなのだろうが、
サウルはそんな様子の彼が
不思議と愛おしく感じられた。

子供を慰めるように、
優しく背中を撫でてやる。

「…団長」

蚊の鳴くような声でトールは言った。

「俺はもう…、家に帰りたくありません」