すな粉妄想日記

あんな出来事の後でも、
私達は顔を合わせなくてはならない。

「……」

当然、ユーゴの表情は暗かった。

何か言いたげにも見えるが、
そうでないようにも見える。

ユーゴが私に気づいていなければ
何もなかったように振舞えば済む話なのだが。

しかし…

「……ふぅ」

私は思わず溜め息をつく。

ユーゴがびくり、と体を震わせた。

「……」

仕方ない。

「先程の事だが…」

このまま素知らぬふりをするのも
不自然すぎるだろう。

できるだけ感情を抑えながら質問する。

「いつから、父上と？」

私の問いに
ユーゴはか細い声で答えた。

「…兄さんが…家を出て、すぐ…」

泣きそうになるのを
必死に堪えているようだ。

「君自身は、あれを…望んでいるのかね？」

残酷な質問だ。

そんな事は訊くまでもないだろうに。

「……」

今度は返事がない。

きつく唇を噛み締めながら
うつむいてしまう。

「大丈夫。ここで話した事を
父上に報告したりはしない」

そう告げると、ユーゴは再び
顔を上げてこちらを見た。

瞳の端で涙が僅かに光っている。

私はその視線を受け止め、
静かに頷いてみせる。

「本当は…」

静かにかぶりを振って、ユーゴが言う。

「本当はあんな事…、したくない」