すな粉妄想日記

トールは、団長の勧めもあって
実は幾度か家に戻った事があると告白した。

しかし、飛び出した手前
堂々と帰るのも気が引ける。

とりあえず様子を見るつもりで
足を向けたのだが…

そっと庭を覗き込んだ時、
トールの目に飛び込んで来たのは、
弟の姿だった。

「…覚えてるか？」

優しい声で尋ねられたが、
ユーゴはふるふると首を振った。

「だって僕は…」

視線を上げて答える。

「兄さんを見ていない」

少し、恨めしそうな口調で。

「…そうだな」

トールは苦笑した。

自分が見ていた事を、弟は
気付かなかったのだから無理もない。

「まあ…その…」

言いにくそうにもごもごと口籠る。

脳裏に蘇る遠い記憶。

家の前で佇む、まだ小さなユーゴ。

「…………」

その時の様子を思い出し、
トールは僅かに表情を曇らせた。

罪悪感がちくりと胸を刺す。

緑の生い茂る庭の中…

幼いユーゴは、兄を待っていた。

今にも泣きだしそうな顔をして。

寂しさが全身から溢れていた。