すな粉妄想日記

事務所のソファに深く腰掛けた
夕神は、コーヒーのカップを片手に
ぼそりと声をかけた。

「…泥の字よォ」

他の面々はそれぞれの用事で
出払っていて、部屋には２人しかいない。

「何ですか？」

王泥喜は、コーヒーを注ぐ手を止めて
返事をした。

「あいつ…月の字は…」

相手の方を見る事なく
夕神が尋ねる。

「ココネの奴は…幸せかぃ？」

唐突な質問に
王泥喜は一瞬面食らった。

幸せか、どうか。

それは本人にしか分からない。

なので、

「ええ。いつも元気一杯ですよ」

自分が見た通りの事実を口にする。

少なくとも王泥喜の目に映る
希月心音は、そのように見えた。

「……そうかぃ」

返事を聞いた夕神の眼差しが、
遠くを見つめるように細められる。

「あいつは俺を無罪にするために、弁護士になった」

口調が微かに優しさを帯びる。

「……ええ」

「相当な努力をした筈だよなァ」

「そうでしょうね」

王泥喜が答えるのと同時に、
夕神は深い溜息を漏らした。

「…俺は…あいつから時間を奪っちまった…」

「えっ？」

「あの年頃なら、やりたい事が山ほどあるだろうによォ」

「………」

「どうせ、恋のひとつも経験しちゃいねェだろう」

からかうような口調。

しかし、王泥喜はその言葉から
相手の真剣な心を感じ取った。

希月心音を想う、夕神の気持ち。

「ユガミ検事……」

どう返事をしたものか、
しばらく思案していたが、ふいに

「！そうだ！！」

立ち上がって大声を張り上げた。

「？な、なんでェ急に」

「いい考えがありますよ！！」

半ば興奮気味に、王泥喜は夕神に告げる。

「ユガミ検事が、希月さんの恋人に
なってあげればいいんですっ！！」